風立ちぬ 今は秋
幼稚園生の頃
そのくらいの歳の子が皆そうであるように、僕は季節というものが月が変わると同時に正確に、定規で線引きしたように変化していくものだと思っていた。
6月が終わった次の日からは
雨が全く降らない。
8月が終わったら
次の日からは外では落ち葉が舞っている。
そんな感じだ。
誰しもが通る錯覚だ。
当たり前だが現実は、全く異なる。
7月の後半になって梅雨明けする年もあれば
9月の終わりに真夏日なんてのは最近では当たり前だ。
僕たちはそういった出来事に慣れていきながら大人になっていく。
「ああ、もうそろそろ秋だなぁ。」
そんなことを肌感覚で覚えていく。
これは子供では出来ないことだ。
その昔、僕が小学生だった頃の9月1日の話だ。
久々のランドセルに、久々の学校に心の底からワクワクしながら僕は朝ご飯を食べていた。
ママが作る世界で一番豊かな朝食だ。
ふと、見た朝の情報番組のお天気コーナーのお姉さんのセリフが今でも頭にこびりついて離れない。
「本日の東京天気は晴れ。降水確率0パーセント。最高気温は30度です。まだまだ暑い日が続きますが、湿度は低くカラッとした秋の始まりを予感させる日になるでしょう。」
僕は「30度もあるけど秋らしいってどんなだろう」と思ったのを記憶している。
30度台と20度台はそのときの僕にとって季節の住み分けを為す重要な指標だった。
玄関で靴を履き、マンションのガラス扉を開け僕はその言葉の意味を一瞬で理解した。
目の前に広がる大きくて高い雲ひとつない青空、そして顔中に吹き付けたカラッとした心地いい風。
確かに気温はそこそこある、暑い。だけど決していやらしい暑さではない。
カラッとしている。
大人が使うそういう言葉の意味をやっと理解できた。
少しだけ、大人になれた気がしてとっても幸せな9月1日だった。
そんな9月1日が、確かにあった。
もう昔の話さ。
でも僕は今でも9月1日を迎える度にあのときのお天気お姉さんの言葉を思い出す。
本日の東京天気は晴れ。降水確率0パーセント。最高気温は30度です。まだまだ暑い日が続きますが、湿度は低くカラッとした秋の始まりを予感させる日になるでしょう。
今年の9月1日も、そうあってほしいなと。
9月1日に自殺する子供が多いらしい。
そんな事をSNSやラジオで耳にした。
せめてそんな彼等には季節の可憐さを知ってからでも、遅くないよと言ってあげたい。
季節を感じながら物思いに耽ること。
季節を感じながら食事やお酒を選ぶこと
季節を感じながらデートプランを考えること。
そして好きな季節一個でいいから見つけてほしい。
季節は君をほんの少しだけ大人にすると思うから。